企業で顧問をしている方と懇談した時の話です。
同企業の所管部門がお客さんの対応をしていたのですが、その人から文句と要求があり対応に苦慮していました。その担当部長がこのお客さん対応のための会議の席で執行役員に報告をしました。趣旨だけ要約して記します。
「このままでは工事が進みません。一人への対応のために時間を費やしているので他の人の迷惑になっています。これ以上工事を遅らせることはできないので、次回は要求に応えて解決を図りたいと思います。決裁をお願いします」と報告しました。
出席メンバーが黙る中、会社顧問が挙手して発言しました。
「部長の交渉が止まっていることで工事が進まないことは理解できます。過去、この会社では同様の苦情に対して要求を呑むという形で解決を図ってきた歴史も、過去の資料を調べて把握しています。慣例により同様の解決方針を提案したことだと思いますが、これではいつまで経っても、同じような問題が発生すれば会社が屈することになりますよ。今の時代、こんな対応をしていると社会から信頼されなくなります。そんなことをしていて幹部の皆さんは良いのでしょうか。筋の良くない人との関係は、断じて断ち切らなければなりません。
その相手との交渉は、今回の議事録を読むと簡単ではないと思いますが、断ち切る方向で対応すべきです。今回で断ち切らなければ、過去を将来につなぐことになります。今、現役幹部が誤った判断をすれば、この先の幹部になる人に負の遺産を申し送ることになります。
過去からずっと先送りしてきたこのような顧客対応が、現在も大きな問題になっています。皆さんも過去の人と同じよう、自分の代は問題が発生しないように先送りしようとしているのです。先送りをしていても抜本的な解決にはなりません。今、皆さんが負の関係を断ち切る決断をしてください。もう先送りはやめましょう」と発言したのです。
しーんとした会議の席で、権限を持っている執行役員が言いました。
「よく言ってくれました。先送りしてきた会社の歴史をここで終わりにさせましょう。私たちの代で悪縁を切りましょう。〇〇顧問、よく言ってくれました。部長、屈することなく交渉をしてください」と答えました。
担当部長は覚悟を決めて交渉にあたり、その結果、ようやく同意をして問題は解決しました。覚悟を決めた交渉で悪縁を断ち切ったのです。
そのきっかけになったのは、他社から顧問として就任して1年にも満たない人の発言でした。違う文化を持つ会社の視点で考えると「要求に屈して現在の困難を収めるより、この機会に過去を断ち切る」ことを進言できたのです。
執行役員は顧問に感謝の言葉を伝え、この問題の解決を図れたことで過去を断ち切り健全な体質に戻したのです。この時の現役世代が先送りをしない決断をしたことで、現在の現役世代の仕事はやり易くなっています。
会社として、どこかで過去からの悪縁を断ち切ることが将来の会社のためになるという重要性を伝える話です。自分の代は問題なくやり過ごすと考えるのではなく、将来の人のために先送りをしないで解決を図ること。それが大事なことなのです。
執行役員を始め人の心を動かしたのは顧問の発言ですが、発言の前提として顧問の人格と人柄、そして普段の言動が周囲から信頼を得ていたことがあります。一部の人の悪意を持った批判や悪口は、周囲からの信頼を得ている顧問にとって、取るに足りないくだらないものだったのです。
追伸。この顧問は僕が尊敬する先輩のことです。今も変わることなく、覚悟を持った仕事をしていることを嬉しく思います。