毎月開催している勉強会「令和会」に出席しました。今回のテーマは「円の支配者-誰が日本経済を崩壊させたのか-」で、講師の有本さんが解釈した内容を丁寧に講義してくれました。この本は2001年5月、つまりバブル経済崩壊から数年後に発刊されているもので、当時の経済を勉強することを目的にしたものです。
要約した項目は次の通りです。
- 戦後から一貫して日本経済は日本銀行のプリンスたちが支配してきている。
- その方法は窓口指導による信用創造で、戦後経済成長は戦時経済体制の維持と日本銀行による信用創造によるものであった。
- バブル経済の形成と崩壊、その後の長期不況は、日銀のプリンスたちが意図的に行ったものである。
- プリンスたちの目的は、日銀の法的独立と自由経済社会の確立にあった。
以上が要約した項目です。講義では本書の解説を丁寧に説明してくれた後に質疑や感想を話し合いました。
本書では、バブル経済を創り出したのも崩壊させたのも日銀であると結論づけています。実際のところは分かりませんが、財務省関係者によると「本書に書かれている内容は概ね事実に即しています。むしろ詳細は財務省(当時の大蔵省)からの資料提供や内部の話に基づいていた」ということでした。日銀が経済をある程度コントロールできるのであれば、バブル経済もデフレ不況も現実のものにならなかったが、現実になっているのは日銀の金融政策が機能していなかったか、意図的だったかのどちらかである。一般的には現在も日銀の金融政策で経済をコントロールしているので、当時、コントロールできないはずはなかったというものです。
バブル経済は政策金利を引き下げて大量の通貨を市場に供給し、バブル経済崩壊させた時は金利を上げて市場を引き締めています。日銀が経済をコントールできるのであればバブルを抑えられたはずですし、バブル崩壊も軟着陸できたと思います。経済、金融のプロ集団が初歩的な間違いをするはずはありません。
現代に置き換えると、アメリカが各国に対する関税を上げたトランプショックですが、どのように考えても国内経済は物価高に陥りインフレが進行することや株価が下がることは明白ですが、政策として実行しています。経済学者が近くいればこのような経済政策を取ることはないのですが、現実になっているのは何か目的がある意図的なものです。アメリカへの投資を促す手段として各国との取引のための政策というには余りにも無謀です。
僕の好きな経済済学者のポール・クルーグマン氏は、トランプ大統領の関税引き上げに関する矛盾点も指摘しています。
トランプ大統領の主張は次の@からBです。
- @外国企業が関税コストを吸収するため、米国内で物価は上昇しない。
- A米国の消費が、輸入製品から国内製品に大きくシフトする。
- B巨額の関税収入が得られる。
これに対してクルーグマン教授の主張は次の通りです。
- @の通りなら、外国製品の価格は従来通り据え置かれるため、米消費者が関税で値上がりした外国製品を避け米国製品の購入を増やす効果は見込めない。
- Aの通りなら、外国製品が米国内で売れなくなり輸入が減る。
- 外国製品が米国内で売れなくなるのならば、Bの関税収入は得られない。
とても分かりやすく尤もな主張です。つまりアメリカの物価は上昇し関税収入も思っているほど見込めないので、国内経済はインフレに向かい、所得が上がらなければスタグフレーションに陥ることもあり得るのではと思います。
参考になるのが、米国現地 2025年4月8日のポール・クルーグマン教授のトランプ関税政策についてのBloombergのインタビュー・コンテンツです。以下に引用します。
- 米国の関税政策とその影響
トランプ政権の関税政策は、米国経済に深刻なダメージをもたらし、企業が投資を控えることで経済が停滞するリスクを警告。この予測不可能な状況が、経済成長の足を引っ張り、不安定さを増幅させる恐れがある。
- 国際貿易と交渉の現状
中国との貿易交渉は中国が譲歩しない可能性が高い。米国の貿易政策は非現実的で、根本的な誤解に基づいており、実効的な問題解決にはつながらない。交渉の長期化は、経済的損失をさらに拡大させるリスクを孕む。
- 米国経済例外主義とその崩壊
米国の経済的優位性は崩壊の兆しを見せている。その主な要因は、貿易政策や研究開発の予算削減を挙げている。これにより米国の競争力は低下し、世界経済における影響力も縮小する可能性がある。
- 不確実性によるリセッション・リスク
不確実性の増すグローバル経済では、企業は投資判断を保留しがちになり、関税の引き上げが予想以上に深刻な経済的打撃を与えると警告。短期的に景気後退が発生する可能性は高い。
- 米国の貿易政策と議会の役割
米国の貿易政策が大統領に過度に集中している現状が問題。一人の大統領の判断によって、無謀な政策が進行する危険性を抑える必要があり、議会が本来の権限を取り戻し、政策決定に関与すべきであると主張。
またインタビューの質疑の中から一項目を引用します。
Q.トランプ政権の関税政策の根底には、世界の経済秩序そのものを再構築しようとする意図があるように思えます。現行の世界経済の枠組みに、米国にとって不利となるような、根本的な欠陥があるのでしょうか。
A.トランプ大統領やその側近たちは、米国が貿易赤字を抱えるべきではないと考えているだけでなく、どの国とも赤字であってはならないと信じている点です。すべての国と貿易収支を均衡させるべきだという考え方は、完全にナンセンスです。
たとえば、人と人との関係に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。誰かのために働いている場合、その相手からお金をもらっているので、その人との間では黒字になりますよね。でも、その人から買い物はしていないことが多いでしょう。一方で、スーパーマーケットからは商品を買うけれど、自分がスーパーマーケットに何かを売っているわけではありません。つまり、スーパーマーケットとは赤字になります。これと同じことが、国と国との間でも起きているのです。ですから、貿易相手ごとに均衡を取ろうとする発想は、まったくもって無理があります。
結局のところ、国際秩序を作り直すという話は表向きのもので、本質的にはトランプ大統領が関税を導入したいという思いが先にあり、それに理屈をつけようとしているに過ぎないのです。
また関税の影響について、クルーグマン教授は次のように話しています。
通常の状況下で、関税が失業率に与える影響というのはそれほど大きくないのです。関税は労働の効率を下げるものではありますが、それが景気後退を直接引き起こすわけではありません。人々はただ、これまでよりも非効率な仕事に移るだけで、雇用自体は維持されます。つまり、問題になるのは失業率ではなく、生産性の低下と、それに伴う実質所得の減少です。長期的には、こうした影響がじわじわと効いてきます。
以上です。